W.B.L.10
 ※当サイトのあらゆるコンテンツの一部もしくは全部の無断転載、および盗用を禁じます。
 ※HTMLを除く一切のファイルへの無断での直リンクを禁じます。
 ※その他注意事項はこちらをご覧ください。


メニュー
トップ / 掲示板 / ゲーム攻略 / 小説・SS / DNML / 音楽

オリジナル : sa-ku-ra / 始まりの闇
Kanon : 3羽の折鶴 / 小さな温もり、思い出と笑顔と
1000文字小説投稿作品(外部サイトへ飛びます) : Sister DOG / 接点のない絆 / 深淵への哀惜

sa-ku-ra

「…こんにちは」

 不意に声を掛けられ、俺は無様にもその場にへたれこんでいた。全く気配もなく、不意に数センチほど後ろから声がすればそれは誰だって驚くはずだ。俺は正常…だと思う。

「こんにちは」

 同じ言葉を何事もなかったかのように繰り返す。

「…」

 俺は完全に絶句していた。まじまじとその顔を見てしまう。
 俺と同い年くらいの少年だ。少年…とは言っても下手をすれば女にも見えてしまいそうなほど綺麗なツラだった。俗に言う、美少年、と言う奴だろうか。
 そいつがへたれこむ俺を見て、何がおかしいのかにっこりと微笑んだまま表情を崩さない。
 …変な趣味とかないだろうな。俺はとりあえず警戒しながら身体を起こした。

「こんにちは」

 三度挨拶。このまま黙っていれば、永久にこいつは挨拶を続けそうだった。

「…こんにちは」

 俺も挨拶を返す。

「大丈夫かい?」

 ようやく俺の心配をする。…誰のせいだと思ってんだよ。

「…たぶんな」

 何とか本音をしまいこみ、それだけを答えた。

「で、何か用か?」

 何も用がないのなら、いきなり不意打ちを受けた俺の立場がない。

「特に用はないよ」

 思った側から一気に脱力するような事を言ってくれた。呆れる奴だ…。

「ただね、君がここにいたから…」
「はぁ…?」

 俺がここにいたから何だと言うのか…? あまり関わりたくないので、必要最小限の言葉(?)で少年に疑問を投げかけた。

「ここはね…僕の思い出の場所なんだ」

 俺から視線を外し、そんな事を言い出した。
 ここが…思い出の場所?
 思わず周りを見回したが、ここには何もない。ただ一本だけ、ぽつんと立つ木を除いては。

「今はもう花も散ってしまっているけど…これは桜の木だよ」
「ふ〜ん…」

 無関心に返事をする。実際に関心はなかった。

「この桜の木で、僕はよく遊んだものだよ。幼い頃にね」
「ふ〜ん…」
「…あまり、興味なさそうだね」
「実際ないからな」
「じゃあ、君は何故ここに立っているんだ?」
「俺か? 別に理由などない」
「散歩かい?」
「そうだな。こんな所にぽつんと木が立っていたから、何となく」
「…よく見つけたね。ここは、滅多に人が来ない場所だと言うのに」

 確かに、ここには他に人の往来はない。俺自身、どんな道順を辿ってここまで来たかよく覚えていなかった。

「散歩で辿り着くような場所じゃないよ。ここは」
「初対面の俺を嘘つき呼ばわりか。案外礼儀知らずだな」
「そんな事言ってないよ」

 ちょっとだけ、少年の表情が険しくなった。

「じゃあ、何だよ」
「…」

 怒ってしまったのか、その問いに答えはなかった。だが、そうではなく、少年は何か思いに耽っているようだった。早く話を切り上げて立ち去りたかったが、このまま少年を放っておくのは気が引けた。仕方なく、そのまま待つ。

「他人の昔話に、興味はないかい?」

 いきなり、そんな事を言ってきた。

「ない」

 即答してやった。

「…そうか」

 残念そうだった。
 まあ気にならないでもないが、こんな所で長話する気もなかった。

「…本当は聞きたい?」
「…本当は聞いて欲しいんだろ?」

 苦笑してしまう。変な奴だ。

「…仕方ないな。けど立ちっぱなしは疲れる。座っていいか?」
「いいよ、僕も座るから」

 俺が木を背にして座ると、少年はそこから少し離れた位置で同じように座った。

「…変な奴だよな」
「自覚はないんだ」
「いや、あっても困るけど…」
「でも、確かに友達は少ない方かな?」
「だと思った」
「はっきり言うね」
「気遣いは苦手なんだ」
「素直でいいよ、それも」
「そうか? ところで、早く始めてくれないか?」
「聞く気十分だね」

 無駄話がだるいだけだ…。
 俺の気持ちを知ってか知らずか、少年は話し始めた。

「最後に僕がここに来たのは、もう10年近く前になる。
 それまでは、いつも一人でここを遊び場にしていたんだ」
「その頃から、友達いなかったんだな」
「そうだね…」

 苦笑する声が聞こえてくる。

「でも、全然寂しいなんて思わなかった。それが僕には当たり前だったからね。
 そう…一人が当たり前だった。ここで“彼”に出逢うまではね。
 あの日、いつものように僕がここに来ると…そこに“彼”がいたんだ
 僕と同い年ぐらいだと思う。いつも僕が遊んでいる場所で、“彼”は…泣いていたんだ」
「…どうしてだ?」
「…僕にも分からなかった。だから、僕は訊いた。どうして泣いているのかって。
 でも、答えもなく、“彼”は泣き続けるばかり。あの時はさすがに狼狽したよ。
 そのまま立ち去る事も出来たけど…何故か僕は“彼”を放っておく事が出来なかったんだ。
 それまでは、他人に対して感情なんか持てなかったのに…」

 最後の一文が、俺には衝撃だった。
 他人に対して感情が持てなかった?
 …もしかして、こいつは本当の意味で“孤独”だったと言うのか…?

「…しばらく泣いた後に、ようやく“彼”は僕に話してくれた。
 ただ一言、“ユウが死んじゃった”とだけね」
「…ペットか」
「まだ仔犬だったらしくてね。眠らせてあげる場所を探してここまで来たらしい。
 “彼”にとってユウは無二の親友だった。それを聞いて、僕と似てるな、って思ったんだ。
 他人に心を開けない存在。ずっと一人で遊んでいた僕と、動物が親友だったと言う“彼”。
 …だからこそ、僕は“彼”とは仲良くなりたいなって思ったんだ」
「…それで、どうだったんだ?」
「結論だけを言うと、仲良くなれたんだと思うよ。
 僕がユウの代わりになれないかって“彼”に訊いたら、
 始めは警戒していた“彼”も少しずつ僕に心を開いてくれた。
 1日や2日ではなかなかだったけど、それでも日を重ねる度に僕らは絆を深めていった。
 ユウの墓だって一緒に作ったし、時々そこに互いが持ってきた花を供えてあげたり…。
 それこそ、子供ながらも本当に親友と呼ぶに相応しかったんじゃないかな?
 ただ同じ場所で他愛もない話をしたり、走ったり、木登りしたり…。
 その過程で、“彼”の心が開いていくのを見るのはとても嬉しい事だった。
 それほどに、“彼”は僕にとって大切な存在だったんだよ。
 そして、“彼”もそう思ってくれていたと信じたい…」

 そこまで言って、少年は急に黙り込んだ。
 その表情を見る事は出来なかった。
 ただ、不穏な雰囲気だけがその場を包んでいた。
 俺は相槌を打つ事すら出来ず…ただ続きを待つ事しか出来なかった。

「…終わりは唐突だった」

 不意に、そう続けた。

「いつものようにそこに来た僕を待っていたのは、見慣れない光景だった。
 いつも先に来ていたはずの“彼”の姿はなく、それどころか…ユウの墓すらなかった」
「…え?」

 思いもよらない展開だった。

「まるで…今まで“彼”と過ごしてきた事がまるで幻だったかのような気さえしたよ。
 だから、僕は待った。“彼”と過ごしてきた日々は幻なんかじゃないって事を証明するために。
 ずっと待った。
 …待ち続けた。
 …だけど…」
「来なかった…のか」
「…最後の抵抗のつもりで、僕はユウの墓があった場所を掘り返したんだ。
 でも…そこには何もなかった。ユウの亡骸も、その上に供えられた花も…」
「…嘘だろ」
「本当だよ。でも、僕だって信じられなかった…。
 結局“彼”は来なくて、僕は次の日も、また次の日も待ち続けた…。
 そして気付けば…僕が待ち続けた日々は、“彼”と過ごしてきた日々よりも長くなっていた…。
 そして、僕は悟ったんだ。“彼”と過ごしてきた日々は…幻だったんだ、って」

 …それを悟るまでの日々を、この少年はどう過ごしてきたのだろうか。
 文字通り、待ち続けただけ。
 それほど残酷な現実を、俺は知らない。
 そして、その日々の果てに少年は、最も辛い現実を悟った。
 それもまた残酷だ。
 ついさっきまでこいつを無下に扱っていた自分が、急に情けなくなった。

「それが、僕がここに来た最後の日だよ」

 少年は、そう締めくくった。

「ここにいると辛いから…もうそれ以降はここに来なかった。
 でも…悪い事ばかりじゃなかったんだよ」
「…何が?」
「あれから僕は、“彼”以外の人にも心を開けるようになったし、一人じゃなくなった。
 それも、みんな“彼”に教わった事だと思っているから…。だから、“彼”には感謝している…」
「…そうか」
「うん…」
「…だったら、どうしてお前は…今ここにいるんだ?」
「たぶん…君と同じ理由だよ」
「ただ何となくか?」
「違うよ」
「…は?」

 俺が唖然としていると、少年は立ち上がり、歩き始めた。
 そして、俺の視界に入った所で足を止める。

「…僕は、あの日々を捨てた。そのせいで、報われなかった思いがあるとすれば…」
「…何だよ、それ」
「“彼”がいなくなった理由を…あの時僕は考えるべきだったんだ。
 ユウも含めて、“彼”が僕の前から姿を消してしまった理由を…。
 気付くのに時間が掛かりすぎた…。もう間に合うとは思ってなかったんだ。
 けれど…間に合った」
「…意味が分からないな」
「…なら思い出せばいいさ。君が今日ここに来るまでの道のりを。
 君が…どこからやってきたのかを…ね」

 その言葉を言い終えると同時、少年は振り返った。
 その瞬間。
 俺は…脳に銃弾を受けたかのような衝撃を覚えた。
 一気に世界がひっくり返り、暗転する。

「待て…俺は…まだ行く訳に…いかない…」

 その俺を、少年は哀れむような目で見つめている。
 そんな目で見るな…。
 分かってんだ、もう。
 必死で意識をつなぎとめ、裏返しになった世界から逃げ去る。
 夢中で逃げ去る。
 そうして辿り着いた先は、さっきの桜の木。
 よかった。まだ時間は残っていたんだ。安堵の息をつく間もなく、俺は少年の姿を確認した。
 そして、告げた。

「…俺は、お前に謝りに来たんだ」
「…謝られる覚えはないよ」
「いや、俺のせいなんだ。お前の言う“彼”が、お前の前から消えたのは…な」
「…僕はてっきり、君が“彼”なのだと思ってたんだけど」
「こんな姿じゃ、無理もない。それに“彼”はもう帰って来ない。どう抗っても」
「そうか…ちょっと残念だね」
「俺は、あの時すぐに自分の運命を受け入れたから…逆にここに来る事を許されたんだ」
「でも、“彼”は受け入れられずに…そのまま彷徨っていたんだね」
「…ちょっとした事故だったんだ。犠牲は小さな動物一匹だけで済んだはずだった。
 なのに“彼”にはその動物一匹が全てだった。そいつを失いたくなかった。
 だから…守ろうとした。あんな小さな身体じゃ、そんなのは無理に決まってたんだ。
 結局その思いは、無駄に犠牲をひとつ増やしただけだった」
「…死んじゃったんだ、“彼”も」
「…ああ。“彼”は…本当ならそこで“消えた”存在だった。
 でも…たった一つ心残りだった。ユウを救えなかった事だ。
 だから…せめてその手で、弔いをしたかった…」
「…だから、あの日“彼”はここに…」
「この桜の木は…たぶんそんな思いが詰まっている場所なんじゃないかな?
 よく言うだろ? 神木とか霊木とか…。これは…一見そんなのとは無縁に見えるけど…」
「…なるほど」
「俺もよく分からないけどさ。だからこそ、ここには誰も来ないんだろうな。まるで聖域だ。
 本来なら、そこでユウを弔って、そこで終わりだった」
「…そこで、僕の登場だね」
「余計な事をしてくれたよ。お陰で、お前はまた“彼”に未練を残してしまったんだから。
 もう誰からももらえないはずだった温もりに…“彼”は身を委ねてしまった。
 …でも、もう時間は待ってはくれなかった。本当ならあの事故で消えてしまっていた存在…。
 いくら時間を積み重ねても…それは幻に過ぎず、その幻もまた限りある存在だった。
 “彼”がここに来た事も、ユウをここに弔った事も、みんな幻だ。
 そして、お前と遊んだ事も…幻になるはずだった…。
 むしろ、その方が幸せだったんだよ。余計な悲しみを作らずに済んだのだから。
 でも…最後のわがままは“彼”じゃなくて…俺のものだったんだ。
 お前がいかに悲しみを背負ってきた存在かを知っていたから…。
 せめて、お前が前に進むための“思い出”を残してやりたかった…」
「…ありがとう」
「…何がありがとうだよ。言っただろ? “彼”が“お前の前で消えた”のは俺のせいなんだ。
 俺がいたから、“彼”は…」
「…そして君がいたから、僕は今こうして生きていられるんだよ。
 もしこの桜の木が聖域だと言うなら…僕はここに来るに相応しい存在だったんだよ。
 あれほどに身体が弱かった僕も…今はこうして生きていられる。何の障害もなく。
 そこで“彼”に出逢ったから…君がいたから…僕は還って来られたんだ。この日々に」
「じゃあ…もう一度訊く。どうして今日お前は、ここに来たんだ?」

 その問いに…少年はこれまでにない希望に満ちた表情で…

「…明日はね、長い間僕にまとわりついていた足枷が取れる日なんだよ」

 そう答えた。

「もちろん、成功するとは限らないけど…それでもだいぶ今は楽なんだ。
 だから…僕は明日…実際に日常に還って見せる。今はまだ夢でしかないけどね。
 …最後なんだよ、ここに来れるのも。だからこそ…何か忘れ物がある気がして…」
「忘れ物は…見つかったか?」
「…見つかったよ。今日この日に見つけられたのなら…きっと僕はもうここに来る事はない。
 でも…結局“彼”に会えなかったのは残念だね」
「それは贅沢だな」
「…そうかもしれないね」
「…しかし、二本足ってのも本当に疲れるな」
「…早く本人に返してあげなよ、その身体」
「安心してくれ。もう本人はいないよ。代わりに、俺が本人になりきってしまってたけどな…」
「いっそ、そのまま生活してみるのはどうかな?」
「無理だな。一旦記憶を取り戻してしまったからな…。
 誰かさんさえ来なければ、出来たかもしれないのに」
「…でも、いずれ“なかった事”にされるんだろ?」
「…一理ある」

 お互い笑う。

「…明日が勝負か。もう今日は身体を休めとけよな」
「…」
「…ん、何か言ったか?」
「…呼ばせてくれないか? 最後に、君の名を…」

 さっきまでの表情から一転、ひどく切情のこもった表情で俺に問う。
 …けど。

「嫌だ。俺は悲しみなぞ残すのはごめんだからな」
「…単に、その名前自体が嫌いなんじゃない?」
「…そんなんじゃねーよ」

 そんなんじゃない。
 俺は…もうこの名で呼ばれる事はない。とうに消えた存在だ。
 それに、俺の存在そのものがこの少年にとっての足枷だ。俺に出来る事は、別れの言葉を掛け合うことなんかじゃない。

「…行けよ。もう、振り返る事はないんだ」

 少年を促す。

「…本当に残酷だよ、君は」

 無理に、表情をほころばす。
 悲しい笑みだった…けど、俺は確かに、そこに希望を見た。だから、迷うことなくその背を押す。

「…っ」

 少年の呟きは…俺には届かなかった。その続きを紡ぐ事なく…少年は走った。
 自分の帰るべき場所へと。
 俺はそれをただ見守った。やがて、その背中が見えなくなるまで…。

「…ふぅ」

 息をつき、桜の木にもたれかかる。
 まだ時間はあるようだった。
 …しかし、

「…本当に、俺はこれだけのためにここに来たのか?」

 赤の他人の身体を借りてまで、俺はあの少年のためだけにここに来たと言うのか?
 …いや、違うか。

「…あんたにとっても、思い出の場所だったんだな、ここは」

 そう問い掛ける。

──分かってたのなら、早く身体を返してくれよ。俺だって会いたい奴がいる。

 苦笑気味に、返事が返ってきた。

「そう…だな。もう留まる理由もない」

 あの少年との一件は、この桜の木にしてみればほんの物語の一片に過ぎないものだ。いくらでも、その思いは蓄積されていく。

「…よろしく頼むぞ。報われぬ思い達を」

 拙い手で木を撫でる。暖かな…そんな感情が俺の胸に込み上げていた。
 未だ解放されていない思い達は、今もここで眠っている。

「…さて、行くか」

 それは…たった一本の桜の木に込められた物語達…。
 今日もまた…新しい物語が──。


 当サイト開設時に、急いで書き上げた作品です。
 女性キャラを出して受けを狙うのが悔しい気がしたので、敢えて少年二人にしてみたのですが、別の受けを狙ってしまった気がしています(何)。
 それはそうと、当時は(まぁ今もですが)Key作品の影響を色濃く受けていました。いわゆる現代風おとぎ話とでも言いますかね?
 あんまり死後だとか幽霊だとか書くのは本来好きではないのですが(何でもありになってしまうので)、この時は好き嫌い言わずに、書きたいものをまっすぐに書いた気がします。何言ってんでしょうね(´・ω・`)
 ちなみに、桜であることに深い意味は何もないです。ハイ。


このページの上部へ/このサイトについての注意事項/メール(スパムと紛れないような件名を推奨します)

W.B.L.10
管理人:白夢 純(Jun Hakumu)
URL:http://albaavis.sakura.ne.jp/