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Ring will Ring -The Prelude-

「いくよ…鈴…」

「どこへっ…」

「生きるんだ、僕たちは…」

「みんながっ…」


 絶望という名の暗闇。

 残酷という名の暗闇。

 過酷という名の暗闇。


 その中を、ただただ、鈴の手を引いて走る…。
 遠くへ。遠くへと。
 もう、それしか道は残されていないから…。
 助かることが出来るのは…僕と鈴だけ。
 僕ら二人しか、助からない。
 他のクラスメイトたちは…誰も助からない。
 だから、僕らまで犠牲になってはいけない。
 それが、みんなの願いだったはずだから。
 それを、ここで台無しにしてはいけないんだ…。

 鈴を連れて…

 ひたすら、遠くを目指し…

 そして…


 僕は倒れた。



 目覚めは病院。
 僕の隣には、鈴がいた。
 よかった。
 助かったんだ。僕たちは。

 よかった…。



 やがて、退院の日を迎える…。
 そして…。


 過酷な日々が…始まる。



「そろそろ、時間だね」
「うん…」
「行こうか、鈴…」
「うん…」
「二学期の始めだから、気を引き締めないとね」
「うん…」
「………」

 僕が退院したのは、夏休みの最中だった。
 つまり、あの忌まわしい日以来、初めての登校になる。
 そこで僕らの目の前に飛び込んでくるのは…

「鈴…だいじょうぶ?」
「うん…」
「………」
「理樹…」
「なに?」
「手…繋いでてもいいか?」

 弱々しい問いかけ。
 それぐらいのことなら、いくらだって頷いてみせる。

「ほら…」

 手を差し出す。
 不安げな表情のまま、鈴は静かに、僕の手を取った。


 不気味なぐらい、辺りは静かだった。
 それでも、人の姿はあった。
 実質、一クラス分の生徒がいなくなった新学期。
 それは物理的な人数にはもちろん、残された生徒たちの心にも、大きな打撃を与えていた。
 だから、こんなにも静かで…。
 唇を噛み締め、滲みそうな涙を押し殺す。
 あの時は、泣いてしまったけど…。
 約束、破ってしまったけど…。
 でも…。

「理樹」

 声と共に、掴まれた手に力がこもった。

「…うん」

 大丈夫だよ。恭介。
 もう、僕は振り返らない。
 時おり悲しく、苦しく、泣きたくなることはあるだろうけど…。
 それでも挫けない強さを、みんながくれたから。
 僕は、この未来を歩いていく。
 かけがえのない、この手のぬくもりと共に。


 まだ、始業までには時間があった。
 今学期から僕ら二人は、隣のクラスに配置換えとなった。
 顔ぶれが変わるだけで、周りには、以前のようにクラスメイトがいる。
 心強いことだと思った。
 だけど…

 それは同時に、僕らの過ごした2-Eが、本当になくなってしまうということでもあった。


 僕らは…誰もいない教室に来ていた。
 教室を間違えた訳じゃない。
 ましてや、未練などでもない。
 いうなれば決別。もしくはけじめ。
 確かに存在したこの教室での日々。
 それを捨てることなく、胸に刻んでいきたかった。

「理樹君、りんちゃん、おはようですよ〜」

「やは、ようやくみなさん揃ったようですネ」

「ぐっどもーにんぐ〜、なのですっ」

「何だ、まだ眠そうな顔じゃないか」

「…おはようございます。おふたりさん」

 僕ら二人を迎えてくれる言葉たち。それはもう、永遠に繰り返されることはない。
 さよならもなく、どこか遠くへと行ってしまったんだ。
 いや、遠くへ行っただけなら、また会えるはずだった。

 みんなは…消えてしまったんだ。

「何やってるんだ、おまえたち」

 不意に後ろから声が掛かり、僕らは慌てて振り返った。
 そこに立っていたのは、僕らの新しい担任だった。
 入院している間に、一度だけ見舞いに来てくれたことがあった。

「お別れだ」

 僕よりも先に、鈴が答えていた。

「…そうか」

 それだけで意味を察したのだろう。それ以上の追究はなかった。

「もう、始業の時間ですか?」
「もうそろそろだ。どうする、もう少しここにいるか?」

 その些細な気遣いが、とても嬉しかった。
 その必要はないと言わんばかりに、鈴は首を振った。

「そうか。まあ、今日は始業式で終わりだからな。今日のうちに、少しでもウチのクラスに馴染むといいな」
「…きっと、大丈夫です」

 確証はないけど、僕はそう答えていた。
 それは、決意でもあったから。


 担任に連れられ、隣のクラスへ。
 僕らの事情は、簡単に説明されるだけだった。
 転校生という訳ではないから、深い説明は不要だった。
 僕らは、後ろの方に隣同士の席を与えられた。
 HRが終わった後、始業式までのわずかな時間があった。
 でも…僕らは、クラスメイトと話をすることはなかった。
 彼らの心の中にある闇だけは、どうしても隠しようがなかったから。
 当事者である僕らでさえ、そのことに気付いてしまったから…。
 話し掛けようにも、何を言えばいいのか分からなくて…。
 それは隣の鈴も同じようで、慣れない様子できょろきょろとするだけだった。

 これだけの人がいるのに…何故だか、二人しかいないような空間に思えた。

 始業式も、事故の話が大部分を占めていた。
 さまざまな責任問題、あまりにも大きすぎた被害。先生たちも、ひたすら翻弄されているようだった。
 つらいことがあったら、遠慮なく先生に相談するようにと、そう始業式は締めくくられた。
 そしてHRの後、鈴と共に寮へと戻った。



「そういえば、まだ部屋はこのまま片付けないのか?」

 散らかったままの部屋を見回し、鈴が言う。
 そう…この部屋は、修学旅行に出かけた、あの日のままだった。
 それはつまり、真人がここにいた、その時のままということで…。

「………」

 そろそろ片付けるべきだろうか…。
 でも、僕がそれをしなかったのは、ただ怠慢なだけじゃなかった。
 あちこちに散らばる筋トレアイテム、部屋の真ん中に置かれた即席のちゃぶ台。
 それらを片付けてしまえば…。
 かすかな思い出の形をなくしてしまえば…。

「まあ、卒業まではそのまま残しておいてやるか」
「そうだね…卒業までとはいかなくとも」

 やがていつかはなくなってしまう形だ。
 せめてその時がくるまで、このままで浸っていたかった。
 単純に、部屋が広くなると落ち着かなくなりそうだというのもあるかもしれないけど…。

「…どうにかなるのかな」
「ん?」
「明日からの授業」

 今日一日を振り返って、鈴に問いかける。

「どうにもならなかったら困る」
「いや、そうだけどさ…。みんな、落ち込んでるみたいだしさ…」
「でも、あまり気を遣われるのも逆に嫌だな…」
「…それもそうだけどね」

 直接的な当事者ではないからと言っても、他のみんなが負った心の傷が軽いというわけではない。
 今日の様子を見ていれば、それは一目瞭然だ。

「で、これからどうしたらいいんだ…?」
「これから…か。…どうするのがいいんだろうね」

 これから先のこと。あの日から幾度となく、繰り返されてきた課題だった。
 僕も鈴も、とにかく先のことを考えてきた。

 でも、それはほとんど義務感だった。
 そうしなきゃいけない。そうしないと、僕らは更に大きなものを失ってしまう。
 そんな気がしていた。
 それはきっと、鈴も同じだろう。
 だけど…

 本当に、それだけでいいのだろうか。
 感情を押し殺すことが、本当に強さと呼べるのだろうか。
 そんな疑問も、ずっと心のどこかに潜んでいたような気がする。
 でも、それを考えると、また立ち止まってしまう。
 ひたすら感情の繰り返し。
 その繰り返しの中で、ふと思うことがある。

 いつになったら、そこから抜け出せるのだろう、と。



 きっかけは…そこにあった。
 例えるならそれは、歩き慣れた道の見慣れた電柱。
 あるいは自動販売機。店の看板。壁の落書き。
 普段、何気なく目にしているものでも、気付けばそれは、スタートラインとなり得る。
 そう、思い出せばいい。まったく同じなんだ。
 だから今の僕には、『それ』が出来るはずだった。
 あの頃の仲間たちは、もう誰もいない。
 だから、残された僕たちが、自分の手でやらなきゃいけないと思った。

「鈴」
「なんだ理樹……って、うわっ!」

 慌てた声と共に、おぼつかなくそれを受け取る。

 鈴の手には…野球のボール。

 繁々とそれを見つめる鈴に、僕は声をかける。


「始めようか、鈴。

 新しい1ページを。

 僕らの手で、作ろう」




Ring will Ring

「二人でできないなら、人数増やすだけのことだろ」

「…お別れだね。みんな」

「うん。『事故の生き残り』でしょ?」

「どれだけ…それを失った時の絶望が大きいことか」

「この場所には…笑顔があると」

「だったら、あたしはずっと理樹といる」

「私は、あなたたちが思っているほど、出来た人間じゃない」

「あなたに私は救えない」

「あの子の背負っている荷物、誰が一緒に抱えてあげられるのかしらね…」

「私は…決してあなたを許しはしない」

「理樹。ひとりで抱えるな」

「お前は…お前だけは生きろ」

「…このまま、抱きしめていて…」

「ならば、それを示す以上に、あなたたちの正当性を証明するに相応しいものはございませんわ」

「心配してくださるのはありがたいですけど、二人して気味が悪いですわよ」

「あたしたちは…もう、ささみに関わらない方がいいのか?」

「強きを砕いてこそ、勝利の味は素晴らしいものとなるのよ。棗さん」

「最後は…私自身の目で、それを見つけたわ」

「この日をどれだけ待ちわびたことか…決着つけますわよ。棗鈴!」

「それは…あの忌まわしき日から、あなたたちが得てきたものでもあるのでしょう?」

「知らないまま…繰り返していたんだ」






「だから…僕はそれを知りに行く」




リトルバスターズ!DNML BOOK

Ring will Ring


続きはDNMLにてお楽しみ下さいm(_ _)m


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