W.B.L.10
 ※当サイトのあらゆるコンテンツの一部もしくは全部の無断転載、および盗用を禁じます。
 ※HTMLを除く一切のファイルへの無断での直リンクを禁じます。
 ※その他注意事項はこちらをご覧ください。


メニュー
トップ / 掲示板 / ゲーム攻略 / 小説・SS / DNML / 音楽

オリジナル : sa-ku-ra / 始まりの闇
Kanon : 3羽の折鶴 / 小さな温もり、思い出と笑顔と
1000文字小説投稿作品(外部サイトへ飛びます) : Sister DOG / 接点のない絆 / 深淵への哀惜

3羽の折鶴

 今日もいい天気だった。
 相変わらず気温は低いままだが、それでも俺が初めてこの街に来た時よりはマシになっている。
 もしくは慣れたのか…どっちでもいいけど。

「祐一…遅い」

 駅前に辿り着いた俺を迎えたのは、不機嫌な瞳だった。

「仕方ないだろ舞…。掃除当番だったんだから」
「…そう」

 …本当に分かってるのかどうか微妙な返事をよこす。まぁ、俺だって香里の脅迫がなかったらすぐに来れたんだが…。

「先に行っててもよかったのに」
「でも、約束したから…」
「…そっか。じゃあ、いくか」

 舞を促し、歩き出す。

「…佐祐理さん、もうじき退院だな」
「…うん」
「寂しかったか?」
「…うん」

 …舞の誕生日。
 そこには、ただ無邪気にはしゃぐ俺達と巨大なアリクイがいるだけだと思っていた。
 いくらでも、舞の誕生日を笑いながら祝ってやれるはずだった。
 けど、その妄想は深い闇によって打ち砕かれた。
 そこには笑顔など微塵もなく、大きすぎる2つの傷が残るだけだった。
 1つ目。佐祐理さん。
 見た目ほどに大した怪我じゃないのが救いだった。数日の入院生活だけで、今では多少跡が残るだけの状態となった。
 2つ目。舞。
 舞の傷を癒せたのは、医者でもなく、俺でもない。
 そう、自分だった。
 戦うのではなく、向かい合うと言う事。戦う事が強さではなく、認める事が強さと悟った瞬間。その瞬間に、舞の傷は癒えた。
 …そして。
 俺達は、再び日常へと帰ってきた。笑顔に満ち溢れた日常だ。それは、舞にとっては本当の意味でのスタートだった。
 本当に、長い回り道だった。
 すべてはここから始まる。
 そう…俺は信じている…。

 数分歩くと、すぐに病院に辿り着いた。

「さっきから気になってたんだが…」
「…なに?」
「その両手いっぱいの紙袋は何だ?」

 嫌な予感がして敢えて触れなかったが、一応訊いてみた。

「佐祐理のお見舞い」
「いや、それは分かるけど…そんなにいっぱい何を持ってきたんだ」
「果物」
「…他は?」
「…果物」
「……」

 案の定。

「舞…加減はした方がいいぞ。佐祐理さん一人でそんなに食える訳ないだろ」
「私も食べる…祐一も」

 …ちゃっかりしてる。

「相談してくれたら、俺も買い物に付き合ったのに…」
「でも…祐一は学校があるから」
「終わってからでいいじゃないか。放課後は暇なんだから」
「…そうだった」

 他愛もないやり取り。俺が紙袋の片方を持ってやった。両方持ってやろうと思ったが、舞に却下された。
 そんなこんなで俺達は歩みを進める。
 苦もなく、佐祐理さんの病室に辿り着いた。まあ病室に行くのにいちいち試練があったら、それはそれで嫌だが。

「佐祐理さん…?」

 ノックし、ドアを開ける。

「あ、祐一さん…舞も」

 俺の後ろに舞を見つけ、一気に佐祐理さんの表情が明るくなる。見慣れた笑顔だ。
 佐祐理さんは、ベッドから降りて折り紙を折っていた。

「あれ、佐祐理さん、折り紙折ってるの?」
「ええ、折鶴ですよ」
「…佐祐理さん、折鶴は普通、見舞い客が折るものだと思うんだけど」
「固いこと言いっこなしですよ。楽しいですよ、折り紙」
「…まあ、そうだな」

 折れる事にする。

「佐祐理…お見舞い」

 そう言って、舞が重そうに紙袋を手渡す。俺もならう。

「ありがとう、舞」

 あまりの量の見舞い品に驚く素振りもなく、素直に喜びを表す佐祐理さん。まぁ、いつもの事だし…。

「…しかし、折り紙なんかどうして?」
「今日、この病院に入院している子供に貰ったんですよ」
「子供?」
「もう…半年もずっと病院生活なんだそうです。とても重い病気で…」
「…そうなのか」

 どうやら、入院中に仲良くなった女の子らしい。退屈だろうと、その家族が折り紙を持ってきて以来、ずっとそれで遊んでいるのだと言う。そして、佐祐理さんにもお裾分けが来た…と言う訳だ。
 よく見ると、鶴の他にも兜や風船など、いくらか見覚えのある作品もあった。

「佐祐理さん、折り紙得意なの?」
「小さい頃によくやってたんですよ。簡単なものなら、今でも折れますよ」
「俺は折鶴以外は無理だな」
「…私は折鶴も折れない」

 悲しそうに舞が呟く。

「あははーっ。じゃあ一緒に折る?」

 佐祐理さんが誘い、舞が頷く。

「舞は何色が好き?」

 色とりどりの折り紙を舞に見せる。舞はしばらく悩んだ後、青色の紙を取った。

「青色、好きなんだ」
「…思い出の色だから」
「あ、そうだね」

 3年間、舞と佐祐理さんが慣れ親しんだ色だった。

「じゃあ、佐祐理も青色にするね。祐一さんは赤色にしますか?」

 いつの間にか俺も参加させられていた。

「いや、俺はいいよ」
「大丈夫ですよ。祐一さんなら個性的な鶴が折れますよ」

 …誉められているのかどうなのか。

「祐一…付き合い悪い」
「だぁっ。分かったよっ」

 再び折れる。と言うか、お前には言われたくないぞ、舞…。

「あははーっ。じゃあ、祐一さんの分は…」

 そう言って赤色の紙をよこそうとする。

「…いや、俺も青色がいいな」

 何となく仲間外れみたいで嫌だったので、俺も同じ色にする。

「そうですか? じゃあ、みんな同じ色ですね」

 心なしか嬉しそうな佐祐理さん。

「じゃあね舞。まずは三角に折って…」

 佐祐理さんが紙を折って見せる。

「……」

 舞が続く。…さすがにこれだけなら失敗しようがないな。安心して、俺も自分の紙を折る。
 …だが、難関はやはり訪れた。

「あ、ここはね、さっきつけた折り目に沿って折るんだよ」
「……」

 隣を見ると、そこには苦戦中の舞。どうにも要領を得ない舞が、佐祐理さんの助けを借りながらも不器用に紙を折り続けていた。それでも、ようやく最後の段階までやってきた。

「後はね舞。この部分をこうして広げると…」

 佐祐理さんが自分の紙を折って見せる。

「…羽」

 少し感動したように舞が呟く。

「はい、完成」

 一足お先に佐祐理さんが完成した折鶴を机の上に置く。舞もそれに続く。

「お、できたか」

 舞の折鶴も完成した。
 俺も完成させ、3つの青い折鶴を並べた。
 微妙に形の違う3羽の鶴。それが、今の俺たちを小さく表現しているようで可笑しかった。

「できた…」

 それを見つめ、舞が少し嬉しそうに言う。

「あははーっ。初めてなのに上手だよ、舞」

 確かに、多少形がいびつではあったが見事なものだ。…まあ、あれだけ助けを得て失敗されてもかなわないが。

「…で、どうするんだ、これ」
「そうですね…舞、持って帰る?」

 舞に話を振る。

「…佐祐理が持ってて。早く元気になるように」

 首をかすかに横に振り、それでも少し名残惜しそうに言った。本当は欲しいんだろうか…。

「あははーっ。これ以上お見舞いもらったら悪いよ」

 大量の果物たちを見ながら苦笑する。別にそのくらい気にしなくていいと思うが…。
 どうやら舞も佐祐理さんも、自分だけがもらう事に抵抗があるようだった。それでも、この3つの折鶴たちを引き離すのにも何か抵抗があった。
 俺たちはいつも一緒だ。それを暗示してくれているかのようなこの姿を、俺は守りたいと思った。何となくだけど、舞も佐祐理さんも同じ事を考えているように思えた。
 …と、とある案が浮かんだ。

「だったらさ、この折り紙をくれた女の子にあげてみたらどうだ?」

 上級生二人が同時に俺を見る。

「重い病気だって言うし…だったら俺たちも応援しよう。お返し…みたいなものだけど」

 しばらく聞いていた佐祐理さんも、

「名案ですね。きっと、大事にしてくれます」

 と了承してくれた。

「舞は、構わないか?」

 一応確認を取ってみる。

「…その子が喜んでくれるなら」

 舞からも許しが出た。

「じゃあ、早速行きましょうか」

 佐祐理さんが席を立つ。

「え、いいのか?」
「せっかくだから、みんなで行きましょう」
「まあ…そうだな」

 俺と舞は無関係な人間なのだが、佐祐理さんはお構いなしだった。
 気が付くと、舞はすでに3つの折鶴を抱えていた。思いっきり乗り気だった。
 佐祐理さんは、舞の買った果物の中からいくつかセレクトしていた。お裾分け返し、と言ったところだろう。小さい子供なのであまり多くは持たなかった。
 しかし、さすがもうじき退院だと言う事もあって、佐祐理さんの体調はすっかり元通りだった。今更ながら、俺は心から安心した。

「…で、その病室は遠いのか?」
「そうですね…隣の棟まで行きますけど、それほど遠くありませんよ」

 病室を出て、佐祐理さんを先頭に歩き出す。そしてやはり何事もなく、その少女の病室に辿り着いた。

「えっと…あ、いますね〜」

 中を確認し、佐祐理さんが中へ入る。俺と舞も続く。

「あ、さゆりおねえちゃんっ」

 そこには、無邪気に声をあげる少女。正直、とても重病を背負っているようには見えなかった。

「こんにちは。ちゃんとご飯食べた?」

 佐祐理さんが話題を振る。何と言うか…とても手馴れた感じだった。

「ちょっと残しちゃった…へへ」

 少女は、何の警戒もなく佐祐理さんと会話する。

「…あれ?」

 そして、ようやく俺と舞の存在に気付く。俺たちを見つめたまま、どう対応していいか困っている。
 俺たちも同様だった。
 当然のように、助け舟を出したのは佐祐理さんだった。

「あ、えっとね。この人たちはおねえちゃんのお友達だよ」

 それを受け、ようやく俺も口を開く。

「え〜っと…相沢祐一だ。祐一でいいぞ」

 我ながら不器用な挨拶だ。

「……」

 そしてやはり反応しない舞。

「ほら、舞」

 佐祐理さんが後押しする。

「…川澄舞」

 俺に自己紹介した時と全く同じだった。

「ゆういちおにいちゃんと、まいおねえちゃん?」

 おずおずと、それでも無邪気に笑顔を向けてくれる。

「おにい…ちゃん…?」

 聞き馴れない言葉にちょっと困惑。

「…舞でいい」

 たまらなくなったように舞が言う。どうやら俺以上に困惑しているようだ。
 やがて少女の紹介も終わり、佐祐理さんが果物を少女に渡す。嬉しそうに目を細める少女を見て、佐祐理さんも満足そうに微笑む。
 …こうしていると、本当に姉妹みたいだな。
 かつて弟を亡くした佐祐理さんにとって、この少女はどう映るのだろうか。

「…あ」

 ふと気付き、舞に肘で合図をする。

「…なに?」

 無言のまま、俺は舞の手元に視線を送った。舞もそれに気付く。

「…忘れてた」

 それが目的だろ…。苦笑しながらも、見送る事にする。
 …だが。
 少女の元に近づいたはいいが、佐祐理さんとの会話に夢中になっているので機会が掴めずにいた。佐祐理さんも少女も、舞の行動に気付いてない。

(…頑張れ)

 もう応援しか出来ない。挙動不審に陥る舞と場のギャップが見るに耐えないが、俺には何もしてやれない。だが、結局舞から声を掛ける事なく。

「…あれ? まいおねえちゃん、どうしたの?」

 先に少女が気付く。その様子を見て、ようやく佐祐理さんも目的を思い出す。

「あ、そうだったね」

 ちょっと気まずそうに笑う佐祐理さん。

「……?」

 少女は首を傾げたまま舞を見つめていた。正面からの眼差しを受け、舞の動きがまた鈍る。俺自身、その空気が妙に苦痛に思えた。舞が助けを請うように時々こちらを見るので、俺もその度に頷いて応援した。
 そして。

「これ…私たちからのお見舞い…」

 ようやっと、その手の折鶴を少女に差し出す。とても長い道のりに思えた。

「わぁ、鶴だ」

 ためらいもなく受け取り、純粋に喜びを表す少女。それを見て、俺は自分の判断が正しかったのだと実感できた。
 …それほど深く考えた訳ではなかったんだけどな。

「…折鶴、好き?」
「うんっ。あたしもよく折るよ」
「…よかった」

 きっかけを得た舞は、それからしばらく佐祐理さんも交えて少女と会話していた。俺は時々相槌を打つだけだったが、十分に楽しかった。
 そして、予感していた。…この少女が、舞と佐祐理さんに過去の邂逅を起こしていると。
 そのためにも、俺は心から祈った。
 この少女に、新しい明日を、と…。
 ふと見ると、俺たちの折った折鶴は、少女の手に安らかに抱かれていた。
 小さな手に包まれた、3つの形。
 そう、これが俺に予感を与えているものの正体だった。きっと、俺たちはもっと仲良くなれる。過去の傷を癒し合いながら。
 考えすぎかもしれないけど…。
 今の俺は、ただそれを信じていたかった。
 ……。

「ふぅ…すっかり遅くなったな」

 少女と、そして佐祐理さんと別れ、俺たちは帰路を辿っていた。日は既に沈んでおり、夕焼けも遠くに霞む頃。

「よし、舞。手でもつなぐか」

 ぽかっ

「…嫌なら口で言えっての」
「だって、恥ずかしい…」
「安心しろ。俺だって恥ずかしい」

 そんな会話も、俺たちにとって幸せな日常の一コマ。

「…あの子、元気になるといいな」
「…うん」
「けど、本当に折鶴よかったのか?」
「…喜んでくれたから」
「…そっか」

 あれが少女の元気の源となるなら、安いものだと思う。
 でも…もっと舞の喜ぶ顔を見たいと思うのは贅沢だろうか?

「…なあ、舞」
「…どうしたの?」
「今度、うちに来るか?」
「……」

 きょとんとしてこちらを見る。

「いや、変な意味じゃなくてだな…」

 手にしたビニール袋をかざす。少女からのお土産だ。

「貰ったろ、折り紙…とその本。今度の休みとかにさ、折鶴だけじゃなくていろんなもの折って…」

 また、佐祐理さんやあの子に見せよう、と誘った。やがて佐祐理さんが退院したら3人ででもいいし、その中に名雪や秋子さんが加わってもいい。
 誰が一番上手に折れるか競うのもいい。
 特に目的もない提案だ。
 けれど、俺たちなら何をしても楽しいはずだ。
 ただそれだけだけど…それを滑稽だとは思わない。それが俺たちなのだから。
 ……。
 すべてはこれから。
 卒業まで、あと少し…。


 サイトに公開したSSとしては、最初の作品です。いやぁ、拙いなぁ(笑)。
 技術云々はともかく、話の雰囲気は割と気に入っています。Key作品はやっぱりこういうシチュエーションが一番似合うと思うのですよ。
 Kanonでは飛びぬけて好きだというキャラはいなくて、みんな平等に好きっていう印象ですね。ただ、SSの書きやすさではやっぱりこの2人に勝る者はいないです。
 そして今回題材に選んだ折り紙は、私自身の思い出の品でもあります。幼い頃に入院していた時、親や祖父母がお見舞いに折り紙とかその本を買ってきてくれて、病院での退屈な時間をひたすら折り紙で埋めていたものです。
 その時の感傷(?)とでも言いますか、それがこの二人に似合うと思って、このSSを執筆した気がします。いや、これ書いたの何年も前なのであまり覚えてないのですよ(汗)。
 ではでは、お付き合いいただき、ありがとうございました!


このページの上部へ/このサイトについての注意事項/メール(スパムと紛れないような件名を推奨します)

W.B.L.10
管理人:白夢 純(Jun Hakumu)
URL:http://albaavis.sakura.ne.jp/