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オリジナル : sa-ku-ra / 始まりの闇
Kanon : 3羽の折鶴 / 小さな温もり、思い出と笑顔と
1000文字小説投稿作品(外部サイトへ飛びます) : Sister DOG / 接点のない絆 / 深淵への哀惜

小さな温もり、思い出と笑顔と

「はぁっ、はぁっ…」

 少女は、雪の中を走っていた。天気予報を見ていなかったために、突如の雪を予想できなかったのだ。
 風はないものの、かなり激しい雪。それから守るように、少女は一つの箱を抱えていた。豪華なラッピングに、可愛らしいリボンが赤いピンによって留められた箱。
 誕生日プレゼントだった。
 大切な親友の為に買った誕生日プレゼント。
 少女にとって、唯一無二の親友…。
 その誕生日を知ったのは、今からほんの数日前。急いで商店街を物色し、そして昨日、ようやくプレゼントを決めたところだった。資金を持っていなかったと言う事で、買うのは今日になったのだけど…。
 ついてないな、と少女は思った。雪が止むまで待つにもその気配はなく、時間もなかった。
 仕方なくも衝動的に、彼女は走り出していた。途中で傘を買わなかった事を後悔した。でも、もう今は進むしかない。

「はぁっ…」

 息も絶え絶えになってきた。でも、こんな所で立ち止まったら、せっかくのプレゼントが汚れてしまう…。だから進まないと…。

「…あっ!」

 それすらも拒むのだろうか。角を曲がった所で、雪の塊に足を取られた。

「…っ!」

 とっさに身体を返し、プレゼントは守りきった。代償として押し寄せる背の痛み。

「痛…」

 声にならない声。

「……」

 しばらく痛みに耐えていたが、プレゼントに降り積もる雪に気付き、慌てて身を起こした。
 手袋を履いたままの手で雪を払う。
 …こんな時、さすがに好きなはずの雪も恨みたくなる。

「行かなきゃ…」

 まだ痛む体に鞭を打ち、彼女は再び走り出した。

「はぁっ、はぁっ…」

 一度止まってしまった為、再び走り出すのがまた苦痛だった。それでもそれが使命であるかのように…。
 ただ先へと走る。
 そんな雪の下…。

 舞は家の外に出た。
 ほんの一時間ほど前まではまだ青空が見えていたはずなのに…。外は、突然の大雪だった。

「……」

 …随分と積もっていた。
 もちろんこの雪だけで積もった訳じゃない。前の晩にもいくらか積もっていた。それでも、突然の大雪はそこにあるもの全てをあっという間に真っ白に染めていた。
 一面の白。
 ドササッ…
 すぐ脇で小さな音をたて、木の幹に積もった雪が落ちた。地面にてそれは、一つの小さな塊となった。
 どこか頼りない…そんな印象を抱かせた。
 舞は、その頼りない塊を両手でそっと拾い上げた。素手だから、冷たい。

『おかあさん、ほら…動物えんだよ』

 …悲しい過去が不意に呼び起こされた。

「……っ」

 舞はその場にしゃがみこんだ。
 ぱんぱん…
 手の感覚はいまだ覚えている。あの雪の冷たさ。感触。そして、思い出のカタチを…。その雪の塊は、ちょうどあの頃の感覚に似ていた。
 あれから成長したし、実際はもっと小さかったのかも知れない。
 どっちでもよかった。
 間に合わせに、庭の木から葉と実を失敬した。
 …たちまち、それは完成した。

『素敵な…動物園』

 温かい声が聞こえた気がした。
 手の平に、一羽の雪うさぎ。
 母親との思い出。

「…おかあ…さん…」

 静かに降る雪にすら、かき消されそうなか細い声。
 うさぎだけの動物園。
 一体、何羽のうさぎ達に囲まれていたのだろう…?
 思い出せない。
 舞は、二つ目に取り掛かっていた。
 二つ、三つ、四つ…
 雪は冷たいのに、こうしていると温かい気持ちになれる。舞にとって、この温かさは寂しかった。
 寂しいのは嫌だった…。
 それでも、舞は思い出の中に居場所を求める。
 五つ目…
 …片目がない。

「……」

 寂しさが更に押し寄せる。

『素敵な…動物園』

 既に築かれた四羽のうさぎが、新たな兄弟の誕生を待っているように見えた。為す術なく、ただその場で途方にくれる。

(…何をしているんだろう)

 不意に自嘲じみた感情が湧きあがる。
 その間にも、雪は舞の身体を優しく、冷たく包んでいた。結晶の一つ一つが集まって、母親の温もりを築いている…そんな気がした。
 寂しいばかりじゃない。
 だけど、今の自分は…思い出から逃げている状態だった。温もりよりも…冷たさを求めている。

(おかあさん…私、おかあさんを傷つけている…)

「…舞?」

 不意に掛けられた声で我に返り、舞は振り返った。白いカーテンの向こうに浮かぶ影。その正体はすぐに分かった。

「…佐祐…理?」
「何やってるの? こんなに雪まみれになって…」
「…佐祐理も」

 互いの身体をぱんぱんと払う。そこで、舞は佐祐理の抱えているものに気付いた。

「あ…これ? 舞、確か今日が誕生日って言ってたよね?」

 佐祐理は、満面の笑みと共にプレゼントを差し出した。

「舞、誕生日おめでとう」
「……」

 すっかり忘れていた。舞にとって、自分の誕生日を祝ってくれる存在など…皆無だったから。

「佐祐理…」
「…ちょっと雪被っちゃったけど、中は濡れてないと思うから」

 苦笑を浮かべる佐祐理。絶え絶えの息は隠し切れなかった。それに、コートの背に付いた明らかな汚れ。

「……」

 自分の中に温かいものが込み上げてくる様子が分かる。

「…舞? どうしたの?」
「…何でもない。ありがとう」

 二人で屋根の下に移動する。
 プレゼントの箱に積もった雪を払い、しばらくそれをじっと見つめていた。その様子に佐祐理が疑問を持つ。

「…どうしたの? 舞」

 問うと、舞はしばらく間を置いた後…

「…今、開けてもいい?」

 そう呟くように訊いてきた。その様子が可笑しくて、佐祐理の表情が思わず緩む。

「うん。いいよ」

 笑いをこらえつつ答えると、舞は不器用に包みを解いていった。
 やがて、その箱が開けられる。

「……」

 その中身を知り、舞が微かに表情を変える。その意味に、佐祐理は気付けなかった。

「どうかな、舞?」

 少し不安になりながらも、佐祐理は訊ねた。

「…うさぎさん」

 ぽつ…と舞が呟く。
 その言葉通り…その箱の中から顔を覗かせたのはうさぎのぬいぐるみだった。
 可愛く脚色された、どちらかと言うと子供向けのもの。それでも佐祐理は迷う事なくそれを選んだ。舞の性格を理解していたから。
 …だけど、それっきり黙ってしまった舞に、佐祐理は戸惑ってしまった。

「…舞」

 呼び掛けても、答えはなかった。ずっとそのぬいぐるみを抱いたまま、俯いている舞。
 その時、びゅう、と突風が吹いた。

「きゃっ…」

 吹きつける雪を腕でかわす。

「あはは…びっくりしちゃったね、舞」

 風が去った後に、再び佐祐理は舞の方に視線を向ける。
 …しかし、その途中で佐祐理の視線が止まった。

「…あれ?」

 その先に存在していたもの…。
 それに近づいて行ってみると、その正体はすぐに分かった。

「あれ…? うさぎさんだ…」

 雪の中、何羽も寄り添うように存在しているうさぎたち。

「これ、舞が作ったの? あはは…可愛いね」
「……」
「ね、舞…」

 何かを言おうとして、佐祐理は言葉を切った。
 舞がうさぎのぬいぐるみを抱きしめ、そこに顔をうずめていた。

「舞…? どうしたの…?」

 不安げに問うと、ようやく舞は口を開いた。

「…うさぎさんは…悲しいものだと思ってたから…」
「えっ…?」
「悲しくて、寂しい…そんなものだと思ってた。でも…」

 ぎゅっ…と、ぬいぐるみを抱く腕に力をこめた。

「このうさぎさんは、とても温かい」
「舞…」
「この温かさ、とても嫌いじゃない…」

 泣いてしまったのかと思えた。しかし、ただその温もりを近くに感じていただけだった。
 佐祐理は、舞の過去を知らない。だけど、その場に存在するうさぎたちは、舞の思い出を築いているように思えた。悲しい思い出、寂しい思い出、だけど…暖かい思い出。
 その中心に、不完全な思い出があった。

「…あれ? この子、片目がないよ?」
「…もう、実がないから」
「そっかぁ…。あ、そうだ」

 佐祐理が閃いたように声を上げる。

「舞、ちょっとそのリボン貸してくれる?」

 プレゼントの包み紙に付いていたリボン。その中心に留められていた赤いピンは、ちょうどぴったりとそのうさぎに光を与えた。

「ほら、これでみんなとおんなじ」

 一足遅く完成された五つ目のウサギが、兄弟の輪に加わる。

「…ありがとう、佐祐理」
「…え?」
「うさぎさん、とても可愛い。このぬいぐるみも、雪うさぎも」
「あははーっ。喜んでもらえたら、佐祐理も嬉しいよ」

 一人では完成しなかった動物園。
 二人で完成させた動物園。
 その光景を見て、舞は思い出していた。…悲しいのは、そこに温もりがあるからなのだと。
 でも、温もりを得ずして生きられるほど、人は強くなくて…。
 だから、それを失わないように生きてゆく。そう言うものだと思った。

「あ…雪、やんだね」

 佐祐理の声に空を見上げると、曇り空は相変わらずだったけど、確かに雪がやんでいた。

「おいでよ舞。うさぎさん、可愛いよ」

 佐祐理に誘われ、再び庭に出る。そして生みの親の手に抱かれるうさぎたち。

「あははーっ。舞、おかあさんみたい」
「…おかあさん?」
「うん。今の舞、とても優しい顔してたよ」
「………」

 少しだけ恥ずかしくなった。
 でも、もしこのうさぎたちが本当に思いを持つとして、自分の手に抱かれる事を喜んでくれるなら…。この温もりはやっぱり嬉しいものだと、舞は思った。

「でも、舞がおかあさんだとしたら、おとうさんは誰になるのかな…あはは、舞、痛いよ〜」

 庭に響く佐祐理の笑い声。その笑顔が、今舞にとって一番離したくない温もり…そのものだった。
 その温もりの下、小さな温もりたちが、そっとふたりの輝きを浴びて佇んでいた──。


 Kanon SS第二弾も舞&佐祐理さん話。やっぱり書きやすいです。
 元々はリクエストを受けて書き始めたのですが、内容量の割に随分と時間がかかってしまった記憶があります…orz
 で、肝心の内容は、これまたお気に入りです。前作の「3羽の折鶴」とはまた違うシチュエーションで、二人の絆を描けたと思います。
 原作の佐祐理さんシナリオを自分なりに膨らませた結果とでも言いましょうか。
 …しかし、今後Kanon作品…というかむしろSS自体書くことがあるのだろうか(汗)。

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